規制に塗れたカリフォルニア、運用迷子は企業だけじゃなかった
04.22.2025
Written by KAI

ある企業との採用プロセス最終段階での会話にて…
企業担当者:「バックグラウンドチェックって、犯罪歴チェックとかしておけばいいですかね?」
私:(バックグランドチェックの基本情報とともに)「基本的にはそういった情報を確認するものですが、仮に何か出てきたとしても、多くの場合それだけを理由に採用を取り消すのは簡単ではないんですよ。アメリカでは、然るべきステップを踏まないと企業側がリスクを負うことにもなりかねません(苦笑)」
企業担当者:「それなら、やらないほうがいいですかね?」
私:「でも実施しなかった結果、入社後に問題が発覚した場合には、企業責任を問われる可能性もあるので、悩ましいですよね…」
(日本では考えられないようなものもある)ありとあらゆる規制に溢れていくカリフォルニア州、そりゃ迷子になるって…。
そんなことを考えながら企業としてのBest Practiceを一緒に考えるHR Business Partner (HRBP)のKAIです。
ご存知の方もご存知ない方も、「訴えられたければカリフォルニア州でビジネスをしろ」と言われるカリフォルニア州。
いつぞやに誰かが言っていた(もはや何も覚えてない笑)言葉。
いつからか私もよく使うようになったこの言葉。
「労働者に優しく、雇用主に厳しいカリフォルニア」という言い方を選ぶ時もありますが、最近はちょっと考えてしまいます。労働者の権利を守るはずの法律が、実は企業だけでなく従業員も悩ませているのでは?と思うような法律が最近多い気がしているのです(同感!という人いたらぜひDMください)。今日はその悩ましいカリフォルニア州の新労働法(「ごく」一部ですので、詳細はHR Libraryへ)と、企業と従業員までも悩ませるその理想と現実のギャップについてお話しします。
最低賃金引き上げ→「時給アップ」のはずが、「シフト削減!?」
なんということでしょう。今年(2025年)1月1日からカリフォルニア州の最低賃金は$16.50/時間になりました(と言っても、それ以上の最低賃金を設定している市や郡も多く存在するので要注意です!)。しかし、喜びに浸るのも束の間。本来の法律の目的である「労働者の賃金を上げて生活を支える!」はずの状況が、「人件費払えないので、シフト減らします…」という現場のリアル。時給が上がったはずなのに、労働時間が減って手取りが減るという逆転現象が発生しているのです。レストランなど一部業界では最低時給が$20になったにも関わらずシフトが削られて結局生活苦に悩む従業員もいるという、制度の理想と現実のギャップが、ここにあります。
求人広告で運転免許の要件を出せない!?→「隠れた条件合戦」がスタート
初耳の人もいるかもしれないので、簡単に説明します。今年1月1日からカリフォルニア州では「職務上明確に運転が必要とされる場合を除き」、採用活動における求人広告やアプロケーションフォームなど一切のものに「有効な運転免許証を保有していること」を求めることが禁止されました。本来は「運転しなくてもできる仕事に対して、不必要な免許要件をつけるのをやめよう!」というのが法律の目的だったはずが、企業は「合法的に運転できる人を探す抜け道」を探し始めただけでなく、そもそも運転が必要かどうかの定義が曖昧すぎて求人作成の手間だけが爆増、(更には採用したはいいけど採用後に免許証はあるけど車がないことが発覚し、業務遂行が困難に…なんていうこともあり得る)という現場のリアル…。Uber Eatsの求人広告に「運転免許証必須」って書けなくなったらどうなる?「運転しない」配達員の誕生!?なんていうカオス状態は想像がつくだろうか。笑えない悩みですが、それで採用されてしまった従業員は「そんなこと言われても…」という状態に。
法律は知識だけでなく「準備」も求めている
もちろん、これらはほんの一部。2025年に施行・改定された新たな労働法や関連法の影響は、特に中小企業にとっては重くのしかかります。職場でのサポート体制の不足、中小企業へのインパクト、既存のプライバシー保護における法律との両立の課題などは、企業側の悩みの種となると同時に、従業員にとってもチャレンジとなります(なり得えます)。法律だからといって「導入すればそれでOK」ではありません。
その法律の内容を正しく理解し、現実に起こり得るケースを想定(または他企業で実際に起こったケースがないか)すること。そして必要であれば他社での事例にも目を向けながら、企業としての備えを整えることが不可欠です。またそれら法律や社内ポリシーに関する理解を、経営層やマネジメント層だけでなく、従業員全体へ適切に浸透させることも企業としての責任です。
「想像がつかない」「自分たちには関係ない」と思えるような法律であっても、背景には実際に起こったケースが存在しています。企業の規模を問わず、従業員や顧客を抱える一企業として、正しい情報を収集・理解し、適切な対策を講じることが求められます。
少しでも不安に感じた方がいたら、どうか一人で抱え込まずご相談ください。
KAI:
自分の視点はどうしたら広がるのか、モデルのように小さい頭ではなくむしろ若干同年代の人と比べると大きいかもしれない頭で日々考えながら、できるだけ自分と違う視点を持つ人との接点を増やしたい・絶やさないようにと思って生きています。アメリカの土地と同じように壮大な人事という領域で、HRBPとして日々様々な業種の在米日系企業様をサポートしています。