実はすごい、アメリカの「Employee Handbook」
02.24.2025
Written by KAI

この広い世の中に無数にあるキャリアの中で、深すぎる米国人事の沼に自らハマりにいったHR Business Partner(HRBP)のKAI(カイ)です。
記念すべき第一回目のテーマをしばらく考えていましたが、複数の人間が同じ屋根の下で暮らすようなものである「組織」というものを、無秩序から救ってくれる救世主とでも言えるかもしれない、アメリカの「Employee Handbook」について、ちょっとしたハンドブック信者ではないかという視点でお話しします。
「従業員ハンドブック」や「就業規則」という形で日本語訳されるアメリカの「Employee Handbook」といえば、とにかく長い、ひたすら長いです。私のような日本語が第一言語、英語が第二言語になる人にとってはなかなかのハードルです。実際、一組織に在籍中に自社のハンドブックを隅から隅まで読んだことのある人は、人事担当者でも全員とは言えないかもしれませんし、必要な時だけ、必要な箇所を確認するという人の方が圧倒的に多いのが実情ではないかと思っていた今まででした。まさか自分が隅から隅まで読み漁ることになろうとは…。しかもそれが意外と嫌いじゃなかった新たな自分発見までしちゃいました。読み漁ったからこそ見えた「ハンドブックの向こう側」、お伝えします。
実はすごかった「Employee Handbook」
この例を取り上げるに一番相応しいのは、なんと言ってもカリフォルニア。そこでビジネスを展開する企業であればご理解いただけるであろう「自由の国アメリカ」とは程遠い、全米でも一番と言っていいほど(従業員を守る)規制が多い州です。その規制をふんだんに盛り込んでいるのがカリフォルニア州の「Employee Handbook」です。
Employee Handbookの構成は企業によって異なりますが、以下のような内容が含まれます。
- 会社の基本情報やハンドブックの位置付け
- 従業員の権利を含む雇用における基本情報
- 職場の行動規範などを含む規則・ポリシーなど
これらが何十ページにも渡って記載されています。いかにも読んでて退屈そうだなと思う人もいるかもしれませんが、実はそのハンドブックにはこんな効力が・・・
ロトの盾みたいなハンドブック
企業経営において、最も避けたいのは労務トラブルです。訴訟大国と言われるアメリカでは、解雇を巡る訴訟、ハラスメント申し立て、FLSA statusに関連する事柄など人事リスクがいっぱい。そこで水戸黄門の印籠というべきか、ロトの盾というべきか、組織を法的リスクから守る頑丈な「盾」となってくれるのがハンドブックです。ルールを明示していることで会社側の正当性を証明しやすくなり、訴訟リスクの軽減に繋がります。ただし、盾にも定期メンテが必要。タイムリーに正しい法律にアップデートしておかないと逆に訴訟リスクを上げかねないので要注意!
振り返ればハンドブックがある
(もう知らない世代も多くいるという現実は見ないふり・・・)
労働法や安全衛生規則に関する情報を記載することでトラブル発生時の対応が容易になるだけでなく、評価や福利厚生、従業員の権利に関する情報を記載することで、透明性を確保し従業員の満足度とモチベーションの向上を図ることができます。CSR(Corporate Social Responsibility: 企業の社会的責任)の重要性も高まっている現代では、「ボランティアに参加するためのボランティア休暇を与える」などの制度などが良い例ですね。もちろんハンドブックさえあれば万事解決というわけにはいきませんが、全社同一の取り組みにより、一貫性と信頼性のある企業運営を実現します。
気づけば口癖になっていた企業理念
企業の使命やビジョン、行動指針を示すことで、組織の一員としての意識が生まれます。また従業員の行動に一貫性を持たせることで、社内の一体感や信頼感を高め、従業員同士の協力やコミュニケーションを促進し、組織全体のパフォーマンス向上に繋がります。例えば「オープンなコミュニケーションを推奨する」という行動指針や前述のボランティア休暇も社内文化の形成や組織の価値観の共有に繋がるといったイメージです。
実はあるじゃん最強マニュアル
休暇申請や経費精算など日常業務に直結するものや、緊急事態や特定のシチュエーションにおける対応手順などを明示することで、スムーズな業務遂行、迅速かつ適切な対応が可能になります。
冒頭にある通り自ら沼にハマりにいった身分なので職業柄、毎年この時期数ヶ月はハンドブックの改訂シーズンです。ハンドブック 時々 特別事例、のようなもはや「ハンドブック祭り」とでも呼ぶべき時期で、とにかく色々なハンドブックを改訂します。コンサルティング会社が提供するテンプレートをベースに作成されたもの、親会社とのバランスを保ちながら作成されたもの、毎年改訂されているもの、10年近く改訂されていないものなど様々です。驚くことに全く同じハンドブックは一つもありません。
ハンドブックは、組織とその一員である従業員を表し、組織の運営や従業員のサポートにおいて重要な存在です。その内容を理解し、適切に活用することで、組織と従業員の双方に多くのメリットがもたらされます。あなたの企業の従業員ハンドブックは、最新の法律が反映されているだけでなく、理想の組織と従業員像を正しく反映していますか。もしかしたら見直しや改訂の検討時期かもしれません。
KAI:
生まれてこのかたずっとHRBPとして生きてきたわけでもなく毎年法律も変わるため、毎日学びながらアメリカの土地と同じように壮大な人事という領域の理解を深め、HRBPとして日々様々な業種の企業様をサポートしています